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神戸地方裁判所 昭和54年(ワ)71号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一<証拠>によれば、次の事実が認められる。

1 被告岡島道明は、昭和五一年二月一日、貸金業を営む原告会社に雇用され、二年足らずの間その広島支店に勤務したのち、昭和五三年一月二〇日付で原告の関連会社であり同様の業務を営んでいる昭和恒産に出向を命ぜられ、そのABC名古屋支店において貸金業務に従事していた。当時の右支店には、被告岡島道明のほか、同被告の補助をする女子従業員一名、貸付金の回収員である男子従業員二名がいた。同支店では、複雑な事務の迅速処理等のため、コンピューターを導入し、顧客への貸出、顧客からの弁済等は全てこれに打込んで処理していた。

2 原告会社は、被告岡島道明に対し、昭和五三年一〇月一日付でその福島支店長として復帰することを命じ、同月一一日から福島支店に出勤するよう指示したが、被告岡島道明は、右指示に従わず、そのまま行方不明となつた。原告会社では、本社から監査の業務をしている吉田信二が昭和恒産のABC名古屋支店に赴き、約一か月をかけて、モニターや顧客カード等を調査し、顧客本人に面接して融資を受けた事実の有無等について確認調査した結果、次のような事実<編注―一九七万五〇〇〇円の横領を推認させる事実>が判明した。<中略>

3 原告は、復帰を命ぜられて被告岡島道明がそのまま行方不明になつたこと、同被告が昭和恒産ABC名古屋支店で従事していた業務の内容(同支店でコンピューターを操作できるのは同被告だけであつた。)、及び過去に発生した同種事件に関する経験などに照らして、被告岡島道明が顧客の氏名を冒用して不正にコンピューターを操作し、架空貸出した金員を着服横領したものと判断して、愛知県警察に告訴する(同事件は、同被告の所在不明で未だ結論が出ていない。)とともに、昭和恒産に対し、右2の(一)ないし(一三)の架空融資にかかる金員(ただし、(一)(二)、(十)及び(一一)については、一部返済分を控除した金額)につき、同被告の使用者として、同被告が昭和恒産に蒙らせた損害金として、代位弁済をした。

<論拠判断略>

二<証拠>によれば、次の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

1 原告は、従業員を雇用する際には、本人及び二名の保証人に署名押印させた、本人が万一不都合の行為等に因り原告会社に損害をかけたときは三者が連帯して弁済の責に任ずる旨の誓約書を入れさせ、なお、保証した事実を確認するため、各保証人に文書による照会をし、原告会社あての返書を徴する、という方法で、二人の保証人と身元保証契約を締結している。

2 被告岡島道明は、原告が広島支店を開設するに際し、その要員として採用されたものであるが、広島支店に着任後、本人として被告岡島道明が、保証人としてその友人である被告玉土迪郎が、それぞれ署名押印し、なお、今一人の保証人欄に被告岡島道雄の記名及びその名下に岡島の押印のある誓約書(甲第一号証)を原告に提出した。

3 被告玉土迪郎は、被告岡島道明に依頼されて、身元保証の重大さに思いを至すことなく、友人としての情義から、軽い気持で保証人となつたものである。(なお、同被告が身元保証をしたことを確認するための返書は、本件では提出されていない。)

4 被告岡島道雄は、長男被告岡島道明の父で、公立学校の教員をしているが、被告岡島道明は、被告岡島道雄の後妻との折合が悪く、昭和四一年に高校を卒業して就職したのちは、正月に数日間帰る程度で、あまり親許には寄りつかなかつた。被告岡島道雄は被告岡島道明が従前の勤務先を退職する際には反対したが、同被告が原告会社に就職する際には、同被告から身元保証人になつてくれるよう依頼されて、その新しい勤務先の内容等については十分聞かないままにこれを承諾し、原告会社からの身元保証をしたことを確認するための照会状に同封されていた返書に自ら署名して、これを原告会社に返送した。

5 被告岡島道雄は、昭和五二年正月に同人宅に寄つた被告岡島道明から、大阪にあるサラ金業の会社に勤務していると聞き、次の正月には、同被告から、広島に行つていると聞き、その後、昭和恒産から、被告岡島道明が横領費消した金員の弁償を求める旨の昭和五三年一二月一一日付の催告書を受取つたがその間、原告会社からは、何らの通知、連絡をも受けていない。

6 原告と昭和恒産とは、別法人ではあるが、本店所在地や目的等を同じくし、役員もその殆んどが両者のそれを兼務していて、税務対策上、独立して業務を行ない、別個の計算をしているけれども、実質上は同一会社の観があり、両者の従業員は必ずしも截然と区別されているわけではなく、出向した従業員についても、出向元の指揮命令権が及んでいる。昭和恒産のABC名古屋支店の業務については、原告会社の本店から吉田信二らが赴いて、書類の不備、不良債権の処理、不正の追及などについて監査をしているが、右監査は、せいぜい三か月ないし半年に一度なされる程度にとどまつていた。

三被告岡島道明に対する請求について

右一及び二の6で認定した事実によれば、被告岡島道明は、顧客の氏名を冒用して不正にコンピューターを操作し、昭和五三年三月九日から同年一〇月七日までの間に、架空貸出した金員合計一九七万五〇〇〇円を着服横領して、昭和恒産に同額の損害を蒙らせたものであると推認されるところ、原告は、昭和恒産に対し、同被告の使用者としてこれに代位して右損害金を弁済したのであるから、同被告に対してその求償権を行使することができるものというべく、同被告に対し、右金額及びこれに対する昭和五三年一〇月八日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は理由があるものと認められる。

四被告岡島道雄及び被告玉土迪郎に対する請求について

右一及び二で認定した事実によれば、被告岡島道雄及び被告玉土迪郎は、いずれも、原告との間に、原告主張どおりの身元保証契約を締結したものであり、被告岡島道明は、その従事する業務に関連する不正行為によつて、原告に、一九七万五〇〇〇円の損害を与えたものであると認められる。

そこで、被告岡島道明の不正行為により、被告岡島道雄及び被告玉土迪朗が原告会社に対して負担すべき損害賠償額について検討する。

上記認定の事実によれば、原告会社広島支店在勤中被告岡島道明に特に不行跡があつたわけでもなく、被告岡島道雄及び被告玉土迪郎において被告岡島道明の勤務や私生活につき実際に監督しあるいはこれをなしうる状態にあつたわけでもないし、また、右身元保証契約の締結にあたつて特に身元本人の任務の内容が問題とされたわけでもないうえ、右広島支店から昭和恒産ABC名古屋支店への出向、配転によつて被告岡島道明の任務にどのような変動があつたかは必ずしも明らかではないので、原告が身元保証ニ関スル法律第三条所定の通知義務を怠つたものであるとまでは、にわかに断じ難いところである。もつとも、右出向、配転は、それが、原告のような金融業者における採用の約二年後のものであることを思思えば、身元保証人の賠償責任の発生ないし責任拡大の危険性を相当程度増大させるものであつたと推認されるのであつて、加えて、ABC名古屋支店ではコンピューターの導入等により不正の追及が困難となつているのであれば、監査の頻度、内容等にそれなりの工夫がなされてしかるべきであるのに、原告会社は、本社職員による三か月ないし半年に一度の監査のほかは、右支店における貸金業務処理の中核をなすコンピューター操作を被告岡島道明に委せ切りにしていたのであるから、同被告に約七か月間にわたり不正行為を継続させたについては、原告会社に同被告に対する監督上の過失があつたものというべきである。

以上の事実に、上記認定にあらわれた被告岡島道雄及び被告玉土迪郎が本件身元保証契約を締結するに至つた経緯、右被告両名がその際用いた注意の程度、その他一切の事情を考慮すると、原告会社に対して負担すべき賠償額は、被告岡島道雄においては被告岡島道明と連帯して一〇〇万円(内六〇万円については被告玉土迪郎とも連帯)、被告玉土迪郎においては他の両被告と連帯して六〇万円とするのが相当である。

(富澤達)

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